う蝕の歴史と治療の変遷—永久歯を守るために
人類の歴史を振り返ると、原始的な食生活をしていた頃は、う蝕(むし歯)はほとんど見られない病気でした。かつては永久歯がその名の通り、一生涯にわたって使われていたのです。
では、人類はいつ頃からう蝕で歯を失うようになったのでしょうか?
約1万年前、人類が狩猟採集生活から農耕生活へ移行すると、穀物の摂取が増え、それに伴いう蝕の発生率もわずかに上昇しました。しかし、本格的にう蝕が広がったのは産業革命(1850年代)の頃。砂糖や精製小麦粉の普及により、世界中でう蝕の大流行が起こりました。当時の治療法は、ほぼ「抜歯」が中心であり、これが第一世代の治療でした。
う蝕治療の進化
約100年前、G.V. Blackによって「tooth preparation(歯の形成)」の原則が提唱され、う蝕に対して「削って修復する治療」が主流となりました。これが第二世代の治療として広まり、歯を保存する方法が確立されました。
そして現在、カリオロジー(う蝕学)の進歩により、う蝕の病因論や治療の目的が大きく変化しました。従来の「削る治療」から、「削らずに管理する治療」へと移行し、患者さん自身の知識と行動変容を促すことが重要視されています。これが第三世代の治療であり、「drill & fill(削って詰める)」から「caries control(う蝕の管理)」への変遷を意味しています。
現在では、適切な予防と管理を通じて、永久歯をう蝕から守り、生涯使い続けることも可能になりつつあります。う蝕はもはや「治療するもの」ではなく、「予防し、管理するもの」へと変化しているのです。
【参考書籍】
伊藤直人 著「カリエスブック 5ステップで結果が出るう蝕と酸蝕を予防するカリオロジーに基づいた患者教育」医歯薬出版